〜太極拳のふるさと“陳家溝”を訪ねる旅〜 2017年10月10日 華武館(運動公園)国定 剛
6月の20周年記念交流表演会に続いて、もう一つの記念事業が10年ぶりの中国研修旅行でした。前回は王老師の故郷でもある北京で、20数名の会員が参加しています。今回は王老師の強い希望で、太極拳発祥の地である河南省 “陳家溝” をメインに少林寺、洛陽、上海と盛りだくさんの旅に行って参りました。9月15日から19日までの5日間の日程でした。
ツアー断念か? 迫る募集締切!! ところがいざ募集してみると、当初はなかなか参加者が集まりませんでした。7月末までには参加者名簿を旅行社に提出しなければなりませんでしたが、その1週間前になっても数人という状況で、ツアー成立最少人数である10名には届きそうにありません。しかし、最後まで諦めず声掛けしようという王老師の執念と熱意が通じ、締切りギリギリのタイミングで奇跡的に11名が集まりました。
平均年齢70歳? まさかの団長指名!!しかし、参加者名簿を作成してみると驚愕の実体が明らかになりました。80歳台2名、70歳台3名と、最年少の王老師を除く10名の平均年齢は70歳強、過酷な中国内陸の旅に果たして全員無事帰還できるのか? 思わず不安のよぎる構成メンバーでした。ただ、そこは中国で厳しい修行に耐えてきた王老師の後を付いていけば大丈夫、と高をくくっておりました。ところが、王老師は「河南省は行ったことないから、国定さん、団長よろしくね!」と、その昔、少林寺や洛陽に行った記憶がかすかに残る私を団長に指名したのでした。
いざ! 出発!!
出発当日、まずは岡山空港から直行便で上海浦東国際空港に飛び、上海で国内線専用空港である虹橋空港まで約1時間かけてバスで移動、それから河南省鄭州空港まで約2時間のフライト、鄭州から最初の訪問地少林寺のある街、登封のホテルまで更にバスで2時間と、初日は移動のみで終わりました。海外旅行の場合、通常日本からも旅行社の添乗員が同行しますが、今回は旅費節約のため現地到着までは団長である私が添乗員兼務でしたので、鄭州空港に無事到着し、出迎えてくれた現地旅行社のガイド王俊嶺さんの姿を見た時には正直ホッとしました。この王さんが私たちを思い出に深く刻まれる最高の旅に導いてくれることになるのでした。
恐るべし! 太極拳パワー!!

さて、今回の参加メンバーは基本的に華武太極拳クラブに所属しているとはいえ、教室が違えば初対面の方もいらっしゃいます。それでも一日行動を共にしていれば少しずつ各々の人となりなどが分かってきます。そして、実は恐るべきパワーを秘めた集団であることが、最初の夕食時点で早くもその片鱗を現しました。テーブルに料理が運ばれて来ると、歓声とともに「何これ?」と言いながら一斉に写真撮影が始まり、次の瞬間には猛然と箸を伸ばし、「美味しい!」「これもいける!」と回転テーブルがグルグルと回るのでした。これも太極拳で鍛えた発勁のなせる技でしょう。
少し落ち着くと、今度は会話が弾み出し、南部健康づくりセンターの上池さん・和気さんのまるで夫婦漫才のようなボケとツッコミの応酬に大爆笑したり、ホテルまでの道すがら目撃した子供たちの演武に感動したことなど話題が尽きませんでした。
80年代に少林寺がカンフー映画の舞台となり大ブームを巻き起こしました。少林寺のある登封には、その後多くの武術学校が設立され、中国全土から少林拳に憧れる子供たちが集まり、今では10万人もの学生が少林拳を学んでいるということです。私たちが初日泊まった禅武大酒店は、その中でも有力な武術学校が経営するホテルで、隣接する学校前の広場で早朝練習があると聞き、さっそく翌朝朝食前に集合し、見学に行くことにしました。
圧巻! 武術を志す子供たちの真剣な眼差し!!

そこで繰り広げられていたのは、12、3歳の子どもたちの一糸乱れぬ見事な演武でした。指導していた若いコーチに話を聞くと、勉強が苦手でやんちゃな子でも、ここで訓練を積むと警察や警備会社などへの就職も有利となり、カンフー映画の俳優、企業経営者のボディガードになるケースもあると言います。そのコーチもこの学校で訓練を受け、20年間少林拳をやっているそうです。もちろん学校では英語や算数など普通の科目も学べます。
興奮冷めやらぬ中で、一旦ホテルへ戻り朝食をいただいた後、期待に胸を膨らませ、最初の目的地である少林寺に向け出発しました。
少林寺! 一大観光地に大変身!!



私が前回少林寺に行ったのは87年12月でしたが、鄭州駅前からボロボロの観光用ミニバスに乗って行き、歴代の高僧のお墓群「塔林」を見た、という記憶しか残っていません。カンフーのショーなどもありませんでした。その後カンフー映画ブームから一気に開発が進み、一大観光地に大変身していました。一方で忘れてはならないのが、少林寺は由緒正しい禅宗のお寺で、インドの高僧達磨(ダルマ)がここで修業し禅宗の開祖となったことです。少林寺からも達磨が修行したという「達磨洞」を少室山の中腹に望み見ることができます。
このような少林寺の歴史をガイドの王さんが、その豊富な知識とウィットに富んだ話術で詳しく説明してくれました。一通り少林寺の見学が終わった後は、武術館での演武鑑賞です。厳しい修行を経た若い僧侶たちによる様々な武器を目にも止まらぬ速さで操る演武や、槍を喉に当て全体重をかける気功など、息を呑むパフォーマンスが繰り広げられました。
少林寺観光の後は昼食タイム。近くの有名な尼寺で精進料理という粋な趣向でした。迫力満点の少林拳演武の後は、禅宗の戒律に従いありがたく静かに食事をいただく、とはならずしっかりビールも飲みながら賑やかなお食事となりました。もちろん肉料理はご法度ですが、見た目も食感も肉のように感じる見事な料理法に感嘆、食材に詳しい王老師や水谷さんの解説に納得しながらおいしくいただきました。
感動! ついにやって来た太極拳のふるさと陳家溝!!



さて、少林寺に別れを告げ、黄河に架かる大橋を渡り、いよいよ太極拳のふるさと陳家溝のある温県に入りました。少林寺のあの発展ぶりが脳裏から離れない私たちは、いつ華々しい街の風景が目に入ってくるのかと窓の外を見渡しますが、見えるのは延々と広がる田畑や、ほとんど車の通らない道路でトウモロコシを乾燥させているのどかな風景でした。
ようやく陳家溝らしき場所に行き着きますが、それらしい表示や駐車場もありません。運転手の石さんが、走っていた小型電気自動車の若い女性運転手に大声で「美女(メイニィ)!陳家溝へはどう行ったらいいんだ?」と聞きました。中国では最近若い女性に声掛ける時には「美女(メイニィ)」と呼ばなければ振り向いてくれません。女性運転手の話では、陳家溝の街は狭いので、大型バスは入れないことが判明、その美女の電気自動車に乗換えることにしました。


そして入って行った街の中にはタイムスリップしたような別世界がありました。それは少林寺とは対極にある静かな落ち着いた世界でした。かつて明の時代に自衛手段として生まれ、門外不出の武術として代々受け継がれて来た陳氏太極拳の面影を残す情景でもありました。ある時期から門外に伝授され、楊式、武式、呉式、孫式として発展して来た太極拳のルーツもやはりここにあったのです。



最初に見学したのは「太極拳祖祠」で陳氏の一族を祀った場所でした。太極拳の起源や理論を記した石碑の説明を受けた後、奥に高く聳える「中国太極拳博物館」目指して歩いて行くと3つの門を通りました。この門こそ太極拳を極めるために通る3つの段階「招熟」「懂勁」「神明」を示したものでした。開きかけた最初の扉から、半開、全開となった扉を順に抜けると、そこには太極拳の基礎を確立した始祖陳王廷の銅像が屹立していました。 案内してくれた女性ガイドによると、なんと私たちが訪れた日の午前中に、その銅像の除幕式があったそうです。しかも式典には陳式太極拳伝承者の四天王(陳小旺、陳正雷、王西安、朱天才)やその他流派代表者も出席されていたと言うことでした。愕然としながらも、太極拳の歴史の1ページに間接的にでも触れることのできた感慨に浸るのでした。
宿願成就! イケメンコーチに大喜び!!

さて、いよいよこの太極拳のふるさとで直接本場の指導者に特別指導いただく時が来ました。場所は「陳家溝国際太極院」というところで、四天王のひとり陳小旺が名誉院長を務め、国内外の多くの大会でチャンピオンを輩出している太極拳専門学院です。私たちを指導してくれたのは、その中でも特に実力のある任攀峰コーチでした。なかなかのイケメンで女性陣は大喜び、熱心に練習に取組んでいました。内容は「放松功」が中心で体の力を抜き、リラックスした状態で行う基本動作を、王老師の通訳の下、丁寧に指導して下さいました。
熱烈歓迎! 岡山市の友好都市洛陽で咲く友好の花!!

こうして所期の目的を達成した華武太極拳クラブ一行は、次の目的地洛陽に向かいました。予定時刻を大幅に過ぎての洛陽入りで、さすがに疲れの色も濃くなったかに見えましたが、ホテル到着後待っていたのは大ご馳走! 今回のツアーを手配してくれたアジアコミュニケーションズの松井社長は岡山市日中友好協会を実質立ちあげた方でもあり、30数年来、洛陽とは友好交流を続けています。受入側の洛陽王朝国際旅行社とも固い信頼関係が築かれており、夕食の会場となった友誼賓館のレストランでも同社日本部の徐晟部長が私たちと食事を共にしてくれました。紹興酒の差し入れもあり、疲れも忘れておいしくいただいたのでした。
今回の旅行は岡山・洛陽の友好関係の恩恵にも浴し、徐部長のきめ細かい配慮の下、熱烈歓迎していただきました。
太極拳で交流! 早朝の洛陽を満喫!!

洛陽は牡丹の花で有名で、毎年4月には牡丹祭りが開催され、世界各国から観光客が押し寄せます。宿泊ホテルの目の前には牡丹広場があり、翌朝は当地太極拳愛好者と交流を求めて繰り出しました。そこでは音楽に合わせてダンスを踊っていたり、スポーツをしたり、様々なグループが多彩な活動を展開していました。広場を更にずんずん進んで行くと、数組のグループが太極拳をやっていました。さっそくその1グループに声を掛けると快く受け入れてくれました。24式や太極扇などいくつかの種目を一緒に演武し、最後は和やかに記念撮影、団員一同大満足でした。
二千年の古都! 見事な解説に一同感嘆!!

3日目は終日洛陽市内観光でした。午前は洛陽が誇る世界文化遺産の「龍門石窟」、午後は中国第一古刹の「白馬寺」を、それぞれたっぷり時間をかけ観光しました。ここで特筆すべきは、何と言ってもガイドの王さんの絶妙な解説でした。豊富な知識もさることながら、解説のポイントを絞り、わかりやすく面白く、しかも高齢者のペースに合わせて時間配分してくれたので、疲れることなく洛陽の悠久の歴史散策を堪能することができました。

夕方、少し時間の余裕があったこともあり、夕食前に洛陽の古い街「老城区」の中心街を散策することになりました。ところが好奇心旺盛な団員の血が騒ぎ大興奮!昔ながらの喧騒や怪しげな路地裏、雑多な商品、サソリや得体のしれない虫の串刺しを売る屋台など、見ているだけで飽きず、大幅に時間超過することになってしまいました。
最大の試練! 空港で3時間待ち!!

4日目の早朝も牡丹広場に行きました。今度は太極拳以外のグループと交流しようということで、手や脚をパンパンと叩くリズムの心地よい老人体操をやってみたり、広場の欄干を使って「圧腿」をしたりしましたが、その隣でやっていた民族舞踊風のダンスに妙に吸い寄せられ、気が付くと王老師はじめ皆そのグループに入って踊っていました。
こうして楽しい思い出満載の少林寺・陳家溝・洛陽を離れる時が来ました。素晴らしいガイドをして下さった王さんや安全運転をしてくれた石さんには、空港へ向かうバスの中、王老師が寝る時間を惜しんで考えた感謝の言葉を伝えお別れしました。
ところが、ここまでずっと順調だった今回のツアーですが、ついに試練の時がやって来ました。洛陽空港では名残りを惜しむ私たちの気持ちが天に届いたのか、待つ事3時間、フライトが大幅に遅れて最後の目的地上海へ飛んだのでした。
魔都上海! 時間と空間を駆け巡った最終地点!!

上海虹橋空港で待ち構えていたのはしっかり者のガイド龚淋淋(キョウ リンリン)さん。午前中には到着する予定が既に午後3時を回っていましたので、その遅れを挽回すべくスケジュールを調整、水郷の街朱家角は翌日に変更し、先ずは世界第2位の高さ(632メートル)を誇る今年完成したばかりの上海タワーへ直行。中国の国際金融センターとして開発が進み、多くの高層ビルが林立する浦東陸家嘴地区の中でもひと際高く聳える上海タワーの展望台から望む景色は圧巻でした。が、残念ながら中国名物?のスモッグで遠くまでは見渡せません。
翌日はツアー最終日。早朝、まだ出勤する人もまばらな時間帯でしたが、ホテル近くのイベント用と思われる舞台の上で上海人民に太極拳を華々しく披露、その後朝食を済ませチェックアウト。慌ただしく朱家角へ出発しました。その約1時間後には昨日の摩天楼とは一転、時間の止まったような静かな水郷の街を散策していたのでした。
夢から現実! 太極拳修行の日々が待つ岡山へ!!

朱家角の水郷を船でゆらりゆらりと一巡り、そしていよいよ最後の観光スポットとなる上海一の繁華街、南京路の歩行者天国へと場所を移動、再び人また人の喧騒の中に身を置きました。
こうして上海では時間と空間を高速で駆け巡り、最後の昼食を南京路近くのレストランで済ませると一路浦東国際空港に向かい、その夜には岡山空港に降り立ちました。
参加された団員の皆さんの個性が融合し、とても楽しく充実した、夢のような5日間の旅でした。団長の重責を果たした私もホッと一息つき、家路に就いたのでした。(終)